異業種の次世代リーダーが挑んだ"社会課題×新規事業"―実践型ワークショップのリアル
2024 年 11 月〜2025 年 2 月、京セラ株式会社みなとみらいリサーチセンターを舞台に、企業の垣根を超えた、“異業種交流ワークショップ”が開催されました。主催は、株式会社 HC プロデュース。全 4 回にわたり、さまざまな業界から集まった 24 名が、社会課題を出発点に、新たな事業構想に挑む実践型プログラムです。
このワークショップの特徴は、単なる学びの場にとどまらないことです。実在する社会課題に正面から向き合い、他社の文化や価値観に触れながら、チームで試行錯誤を重ねる。そんな共創のプロセスを通じて、自身の視野・視座を大きく広げていくことを目的としています。
テーマは、“社会課題の解決を起点とした新事業構想”。異なる視点と経験を持ち寄った参加者たちは、対話と協働を重ねながら、未来をつくるアイデアを形にしていきました。本記事では、その挑戦の記録をお届けします。
目次
異業種交流ワークショップの開催背景と概要
近年、ビジネス環境は AI の進化やグローバル化、消費者ニーズの多様化などにより、これまでにないスピードで変化しています。こうした状況の中、従来のビジネスモデルが通用しにくくなり、企業にはより柔軟かつ創造的な発想と行動が求められています。
■ワークショップ実施目的:
① 意識の高い参加者同士による“彼我比較”を通じたマインド醸成
② 社会課題の考察による、高い視座・広い視野の獲得
③ “オープンイノベーション型事業創造”の一貫プロセスを実践形式で体得
④ 新規事業テーマやビジネスモデルに関するアイデア・ヒントの獲得
⑤ 苦楽を共有することによる、新たな“社外ネットワーク”の構築
本ワークショップは、異業種の次世代リーダーが社会課題の解決を起点に新規事業を構想し、実践的にビジネスアイデアを創出することを目的としたプログラムです。全 4 回・約 3 か月にわたるカリキュラムでは、講義・ディスカッション・グループワークを通じて学びを深め、最終日には新たな事業案を発表しました。

今年度のワークショップには、総勢 24 名が参加しました。1 チーム 5 人ずつに分かれ、異なる企業から集まったメンバー同士が、3 か月間にわたって活動を共にしました。ここからは、参加メンバーへのインタビューを通じて、ワークショップで得られた気づきや学びを紹介します。

参加のきっかけは十人十色
参加理由は各社で異なりますが、自ら手を挙げて立候補したという方は少数派でした。多くの参加者が、会社からの推薦や指名によってこの場に集まっていました。これには、正直少し驚かされました。本ワークショップが、次世代リーダーの育成を目的とした実践型研修として位置付けられていることの現れとも言えそうです。
河合塾の佐藤さんも、会社からの指名を受けての参加でした。「これまで参加した同僚が、刺激を受けて戻ってくる様子を見ていたので、ようやく自分にも順番が回ってきたと感じ、ワクワクしました」と話します。
一方、三菱電機の深堀さんは「参加決定を知らされたのは 2 週間前。なかなか厳しいプログラムであると聞いていたので、正直不安もありました。でも終わってみれば、緊張感のある学びができ、期待を上回る刺激を受けました」と話してくれました。


“社会課題って何?”から始まった議論
社会課題とは何か?という根源的な問いから、ワークショップの議論はスタート。日々のニュースや個々の関心ごとを手がかりに候補を出し、議論を重ねながら各チームがテーマを選んでいきました。アプローチのしやすさ、インタビューの“つて”があるか、自社や自分との関わりが持てるかどうか、といった観点がポイントに。
京セラの杉本は「闇バイト問題なども候補に挙がりましたが、当事者へのインタビューの難しさから断念しました」と語ります。

議論を重ねながら、各チームが関心を寄せたテーマは、以下の通りです。
・メンタルヘルス予備軍の増加
・空き家増加
・教員の多忙感
・人口減少による地域社会衰退
・農業の担い手不足
インタビューで出会った“外の空気”
社会人 7 年目のインテックの吉澤さんは、「他社の文化に触れることで、自分がいかに自社に染まっていたかに気づきました」と話します。生の声を聞くという行為そのものが、想像以上に大きな刺激だったようです。
生の声を聞くことへの熱意は、ほかのメンバーの行動にも表れていました。講師である鷲見さんの新潟の古民家を、休日に自費で訪れ、直接インタビューを行った参加者も。そうした熱量があったからこそ、踏み込んだ視点も得られました。ディスカッションも話題に事欠かず、発表後の Q & A もとても活発でした。

協働って、やっぱり難しい
年末年始を挟んだこともあり、スケジュール調整は各チーム共通の悩みでした。最終日の新事業案発表で 1 位となった渡辺さんと杉本のチームも、「全員が順番に体調を崩し、調整が困難を極めた」と笑います。

文化も背景も異なるメンバーが集まるからこそ、ぶつかることもある。河合塾の佐藤さんは「年上のメンバーに対してどのように立ち回るか悩みました」と。
これに対して日鉄鉱業の野田さんは、「最年長として遠慮があり、結果的に頼り切ってしまったことは反省だ」と振り返ります。そうした葛藤の中にいたからこそ、「同質性のない集団の中で、ネガティブ・ケイパビリティ(不確実性や答えの出ない状況を受け入れる力)を意識し、鍛えられた気がします」とも語ります。
得られたのは、スキル以上のもの
河合塾の佐藤さんは、「メンバーの人間的な部分も理解したうえで、その得意分野を見極めようとしたことで、自分が今まで避けていたアプローチにも取り組めました」と話していました。
初日の自己紹介やアイスブレイクによる自己開示が、チーム内の信頼関係づくりに効いていたように思います。タスクの重さやスケジュールの厳しさに戸惑いながらも、その大変さが、かえって仲間との結束を強めるきっかけになっていたようにも感じました。
最終的には、どのチームも納得感のあるゴールにたどり着き、達成感と学びを手にしていたように思います。
チームでの経験から、組織へ
今回の参加者は大手企業の社員が多く、普段はトップダウン型の業務が中心。その中で、どのチームでも誰かがファシリテーション役を引き受け、役割を分担し、自分たちなりの動き方で、手探りで形を作っていった 3 か月。得たものの大きさは、想像以上だったかもしれません。
ミツイワの渡辺さんの参加目的の一つは、自社における人財育成プログラムの検討でした。実際、その後の動きにも何かしらの影響があった様子。こうした取り組みが、組織の中に静かに広がっていくことを願ってやみません。

編集後記
実を言うと、筆者もこのワークショップの参加者の一人です。取材という視点で振り返るなか、改めて実感したのは、“正解のない問い”に向き合う経験の奥深さでした。社会課題の構造に悩み、仲間との対話に迷い、自分の小ささにも向き合う時間。それでも不思議なもので、終わってみると残るのは、じんわりとした手応えと、自らの少しの変化。自分の思考のクセや、他者との向き合い方が見えてきて、そこに小さな気付きが生まれていました。
それは、内面から始まる静かなシフト。信頼を土台にした対話が、個人からチームへ、そして社会へと広がっていく——そんな変化のきっかけを感じた 3 か月でもありました。
このワークショップを、もっと多くの人に体験してほしい。自分を見つめ、他者と向き合い、社会に働きかける。そんな始まりの場として、このプログラムが続いていくことを、心から願いたいと思います。